海の手記

報告と記録

胡蝶

あなたも、あなたもですか。
やさしくて、やさしくて、世界がつらくて。そんなひとばかりだ。才能の代償に壊れてしまうひとたちばかりだ。音楽があなたを繋ぎ止めているのなら、どうかやめないでほしい。あんなに楽しそうに、それをあなたは承認欲求なんて皮肉っていたけれど、おそらくあなたの場所はそこだ。
あんなやさしい壊れ方をぼくもしたい。多くなくていいから、周りにいつでもひとがいて、死ぬことを許してくれなくて、存在を決定付けてくれて。そしてぼくは恩返しに何かを創る。なんでもいい。とにかく何かを創って、そうやって生きていきたい。
最近すこしだけ、もうなくしてしまったかと思っていた攻撃性みたいなものの残滓が、まだかすかにあることを知った。本当にくだらないと思った。思考は神様の領分だけれど、神様になろうとすることにこそ人間性がある。考えるな、でも考えろ。
暑い。溶けてしまいそう。濡れない雨があれば、もっと雨をすきになれるのに。わからないという感情は非常に人間的だ。わかるものはとても少ない。降ってくる雨の温度を、ぼくは知らない。
どうやって歩いているのかを、ぼくは知らない。
どうやって呼吸をしているのかを、ぼくは知らない。
知らない。
知らない。
ぼくが誰なのかを、ぼくは知らない。
きっとすれ違う誰も知らない。
ふと気持ち悪くなる。
不随意筋や、伸びる爪。まるで生きようとしているのがぼくではなくてぼくの身体であるような。
錯覚だ。ぼくは生きたい。
でもどこまでが錯覚なのかを、ぼくは知らない。