海の手記

報告と記録

消えてしまったらと想像するまでに肥大化した自意識を必死に、文字通り全霊をかけて飼い慣らすことに従事しています。創作という行為により一時的に冷却されるそれとの付き合い方を探しているのです。誰かになりたいと言うにはあまりに僕は僕という人格に執着してしまっています。自壊するくらいならば、自重に耐えかねてしまうくらいならば、誰かのために生きていたほうがずっといいと、僕は僕を規定しました。結果僕はやさしくなれたし、よわくなることに無事成功して、丸い丸い安寧を得ました。でもその安寧のわずかな間隙、取り繕えないほどちいさな空間に、いつだって恐怖はいて、またその存在がまだ自分の中にあることに、僕自身が依存してしまっているのです。
結局自分は何も出来ない人間でした。僕ごときのやさしさでは彼女を救えなかったし、ついぞ僕から何か意味のあるものは生まれそうにもありません。無為に過ごしてきた時間は自意識を膨らませるばかりで、当然僕に福音を与えることはありませんでした。自分が偽物であり何も成し得ない人間であることを甘受できるほど、僕の自意識は強い仕組みをしていなくて、また絶望し、諦観に身を委ねることも恐ろしく、詰まる所また無為な時間を繰り返すより他にないのです。
可愛いひとを、強くて弱いあのひとを、どうしてしまいたいのか、あるいはどうしてあげられるのか、考えています。でも自分は何も出来ない人間だから、出来ないことすら出来ない人間だから、行き場のない無力感と劣等感に苛まれて、足踏みすら出来ず、ただただ呆然と立ち尽くすだけなのです。