海の手記

報告と記録

綺麗

ぼくがこんなにも切なくて、可愛い魔法にかかっていることを貴女は知っていますか。特別美しく、一等淡い、そんな魔法です。多幸感はとても柔らかい感触で、わずかにあたたかく、なみだが出ます。
貴女がつくってくれたぼくという新しい人格が、ぼくはとてもとてもいとおしく、相も変わらず危うく、歪な、それでも貴女のそれにすこしだけ似てきたその輪郭を、出来るだけやさしく撫でています。
たくさんの貴女を知れた、良い旅行だったと思います。ぼくたちらしい始まりが、柔らかな手の感触を伴って訪れました。貴女の耳朶に、陳腐で申し訳ないけれど、あの光がいつまでも続くことを祈ります。
ぼくは彼女の育ったあの街の名前も、買った本のタイトルも、風景や彼女の生活の一部を、ずっと忘れないでいることでしょう。そのすべてが彼女という人間と一緒にぼくの中に記録されるのです。あのくじらの絵本を、ぼくはきっと忘れません。もう次のことを考えている浮かれ気味なぼくをどうか許してください。