海の手記

報告と記録

いきる

特別にならなければ死んでしまうと思った。

関係や立場、果ては命さえも、殆ど平均以下しか執着できないぼくが、他全てへの熱量を賭して執着したものがそれでした。特別にならなければ、生きる価値なんてないとさえ思ったほどです。誤解のないように言っておきたいのは、あくまでこれはぼくがぼくに課した呪いであって、自分以外の誰かに強要する類の価値観ではないということです。とにかく、代替不可の存在になりたかったのです。唯一無二の存在になれば、自分を許せるような、いえ、ならなければ、自分は世界にいてはならないような気がしたから。だからぼくは小説を書いたし、音楽をしたし、絵を描いた。芸術家というのはきっとわかりやすく特別だから。都合のよいことに、芸術家にはぼくのような死にたがりが今も昔もたくさんいて、ならばぼくもそうなるしか生きる道はないと、そう思いました。けれどぼくは駄文しか書けなかったし、どこかで聴いたような音楽しかつくれなかったし、小手先の絵しか描けませんでした。詰まる所、ぼくには特別になるだけの才能がなかったのでしょう。

今は学問をしています。学者というのもまた、ぼくには芸術家と同じくらい特別に映って、またぼくは生きるのに苦労しない程度には要領が良いらしいから、性懲りもなくまた特別を目指しています。芸術は好きだったけれど、寝食を忘れるほどの熱量はありませんでした。学問も同様で、ぼくは学者という特異性に憧れているだけで、文学は好きだけれど、日がな一日そればかり考えているわけではなく、やはり中途半端な熱量しかありません。真剣に学問や芸術の道を進もうとしているひとたちにとってぼくは目障りな存在でしかないのでしょう。ぼくは特別であれば別に学者でも芸術家でもなんでも良いのですから。

それでもこの熱量だけが今のぼくです。このどうしようもなく汚らわしい情熱のようなものが尽きないうちは、ぼくはぼくを諦めないつもりです。

どうかあなたも存分に。

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